余白ペットYOHAKU Pets

Journal

家のなかで、猫だけが聞こえている音がある

猫の可聴域と、住まいの音環境を考える

窓辺で耳をすませている、キジトラ猫
ふいに、片方の耳だけが動く。

そっと座っているはずの猫の耳が、ふいに片方だけ動く。人間には、何も聞こえていない。けれど猫は、たしかに何かを聞いている。

数字の話

人間が音として聞き取れる範囲は、おおむね 20Hz から 20,000Hz(20kHz)までと言われています。これに対して猫の可聴域は、出典によって幅はあるものの、おおよそ 60Hz から 60,000Hz 前後。研究によっては上限を 85,000Hz まで広げて報告するものもあります(哺乳動物学者・今泉忠明氏の解説、および獣医情報サイト等)。

ざっくり言えば、猫は人間の約3倍も高い音まで聞き取っている。聴神経の本数も、人間より約1万本多いとされます。

これは、もともと猫がネズミや小さな虫の発する高音をたよりに狩りをするために発達した能力です。家の中で暮らすようになった今でも、その耳はそのまま受け継がれています。

猫だけが聞いている家の音

人間にとって「静かな部屋」が、猫にとっても静かとは限りません。

たとえば LED 電球や家電のコイルから漏れる高い帯域のノイズ、インバーター制御のエアコンや換気扇、テレビやパソコンの電源が発する微かなキーンという音。多くは人間の可聴域の上限近く、または超えたところにあり、ふだん気にもとめないものです。

けれど猫の耳は、それらをひろっています。

獣医療や愛護団体の解説では、インターホンの突発音、掃除機・ドライヤーの高音、金属がぶつかる音などは、猫が嫌う代表的な音として挙げられています。猫が特定の部屋を避けるとき、人間には聞こえない音源があることも、めずらしくはありません。

耳と、ヒゲと、瞳孔

猫が音にストレスを感じているサインは、わかりやすいかたちでは出てきません。

耳が片方だけ後ろに倒れる。ヒゲがふだんより前に張る。瞳孔がすっと細くなる、あるいは丸く広がる。同じ場所でじっとしているのに、毛づくろいが急に増える。

どれも小さな仕草ですが、続いていれば、その部屋の音環境を一度、人間ではなく猫の側から見直してみる価値があります。

家の素材と、音の反射

音響の基本として、固く平らな表面(ビニールクロスや塩ビ床、ガラス面)は、高い音をよく反射します。逆に、表面に微細な凹凸や空孔がある素材は、高音域の反響をやわらげる傾向があります。

漆喰、珪藻土、無垢のフローリング、布や木の家具——いわゆる自然素材の家が、「なんとなく静かに感じる」のは、気のせいだけではありません。素材そのものが、音の角をすこし落としているからです。

これは人間にもおだやかに作用しますが、人間より高音をひろう猫にとっては、より大きな差として届いている可能性があります。

「静かさ」のものさし

人間が「静か」と感じる家と、猫にとって「静か」な家は、おそらく同じではありません。

家の音を考えるとき、私たちはまず冷蔵庫の音や、外を走る車の低い音に意識が向きます。それは人間の可聴域の中心が、そこにあるからです。

けれど、家の中で過ごす時間は、猫のほうがずっと長い。

猫がいちばん長くいる場所の、ほんの少し上の周波数を、いちど想像してみる。それだけで、家の選びかたや、素材の見えかたが、すこし変わってくるかもしれません。

余白ペットの家づくりは、そんな「聞こえないものさし」の話から始まります。

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